事業を始める際に法人でやるか、個人事業主としてやるか迷われる方は多いと思います。 税金や手続の手間の観点から、法人・個人の違いを解説していきます。

目次

信頼度

一般的には個人よりも法人の方が信頼度があります。 大企業などは法人でないと取引してくれないところもあるようです。 ただ、「法人でなければ取引してくれないような相手はそもそもどうなのか」という問題もあります。 個人・法人問わず、実質を見て取引してくれるのが理想です。

名称・肩書

法人だと「株式会社」とか「合同会社」という名称がつきます。 個人だと自分自身の名前を掲げるのが一般的ですが、商号を決めて登記することもできます。 また、法人の場合は一人だとしても「代表取締役」「社長」と名乗ることができます。

事業を開始するときのコスト

個人事業の場合には、税務署や都税事務所などに届け出をするだけで済みます。 一方、法人の場合には設立時に30万円前後の費用がかかります。(株式会社の場合。司法書士報酬や登録免許税など)

諸々の変更時の手続のコスト

法人の場合には事業所を移転した場合、3万円又は6万円のコストがかかります。 また、役員の任期が終わったり、役員変更の場合も登記をしなければなりません。

事業をやめるとき

個人の場合は廃止届を税務署や県税事務所などに出せば済みますが、法人の場合には解散の登記をしなければなりません。 また、解散事業年度は通常の事業年度とは異なる方法で法人税等を計算しなければなりません。

社会保険の加入

個人事業の場合、常時従業員が5人以上働いていれば社会保険の加入義務があります。 一人でやる場合(フリーランス)には社会保険の加入義務はありません。(加入することもできます。) 一方、法人はたとえ一人でやる場合であっても社会保険は強制加入です。 現状は、入らなくて済んでいる会社も多いのですが、マイナンバー制度が始まったこともあり、これから未加入の会社への取締が厳しくなると言われています。 社会保険の負担はかなり重いです。 僕が以前勤務していた事務所では、社会保険の負担に耐えかねて法人から個人に戻したクライアントもいたくらいです。

損失と利益の相殺

個人で事業をやっていても、法人でも、税務上損失が出た場合に、その損失を翌年度以降の利益と相殺できる制度があります。 損失と利益が相殺できると、利益がゼロとなり、利益にかかる税金は払わなくてよくなるわけです。 この相殺できる期間(損失の繰越と言います)が、個人だと3年間ですが、法人だと10年間です。

赤字の場合の税金

個人の場合、所得がマイナスの場合には所得税を払わなくて良いのですが、法人の場合には、利益がマイナス(損失)の場合でも7万円(規模が大きかったりすると変わってきます)の税金は払わなければなりません。

申告の煩雑さ

ケースにもよりますが、個人事業の場合にはたいてい自分でも確定申告はできます。 今なら国税庁のホームページで知識がなくても簡単に申告できるようになりました。

一方、法人の場合は申告書の書き方が複雑なので、全くの素人が自分でやるのは困難です。 そのため、税理士に頼む場合には、一般的に個人事業より法人の方が報酬も高くなりがちです。 自分で法人の申告までやってみたい方は、こちらの本がとても参考になります。

ネットバンク手数料

個人の場合、ネットバンクは無料で使うことができます。 一方、法人の場合には毎月2,000円前後かかります。 ただ、ネットバンクはわざわざ銀行に出向く必要がなく、経理をする上でも非常に便利です。 有料だとしても契約すべきでしょう。 もちろん、ネットバンク手数料は事業の経費にすることができます。

自分に給料を出せるか・出せないか

個人事業の場合には、自分に給料を出すことができません。 税金等を引かれたあとの利益から、生活費を引き出すイメージです。 それに対し、法人では社長自身に給料を払うことができます。 この給料は法人の経費になりますし、給料の額も自分で決めることができます(一定の要件あり)。

節税の範囲

節税策は法人の方が豊富です。

  • 給料
  • 社宅
  • 保険
  • 出張手当

など、色々とやりようはあります(限度はあります)。 また、事業に関するものは基本的に経費にすることができます。 個人事業の場合には「事業とプライベートで明確に区分できるもの」しか経費にできません。

決算の月

個人の場合には、利益や税金の計算のもととなる期間(会計期間)が1月~12月の1年間と決まっており、申告も翌年の3月15日までと決まっています。 法人の場合は、この期間・決算月を自由に決めることができます。

  • 取引先と合わせたい
  • 繁忙期を避けたい

といったときには決算期を変えられるのは良いかもしれません。

引退時の退職金

個人事業の場合には退職金がありませんが、法人なら会社から退職金を出すことができます。

事業を譲る時

個人事業の場合には基本的にその人の代でおしまいです。 もし自分の子供や他人に譲る場合には、事務所や事業用資産などを譲渡・贈与したことになり、税金がかかる場合があります。 また、資格や認可なども引き継ぐことはできません。 法人の場合、事業を継続するには代表取締役を変えるだけなので簡単です。 中小企業などは、実質的には社長がかなり力を持っていることが多いので、社長が亡くなったりすると大変ですが、形式的には、社長を交代すれば事業をそのまま続行できるということです。

税務調査の可能性

一般的には個人より法人の方が税務調査に来る可能性が高くなります。 これは法人の方が規模が大きく、売上高が高いところが一般的には多いからということもあります。 ただ、法人にした方が得な場合にもかかわらず、税務調査を恐れて法人化しないのはもったいないです。

結局、個人と法人どっちがいいの?

上記のように、個人と法人ではどちらもメリット・デメリットがあります。

法人にした方が良い場合

  • 売上高1,000万円以上(利益500万円以上)
  • 事業を大きくしたい
  • 許認可などが必要

というような場合には、法人にする(法人化・法人成り含む)のがおすすめです。 売上高が1,000万円以上の場合には、個人の所得税でもっていかれるよりも、法人税の方が税率が低く、節税策も豊富だからです。 人を多く雇ったり、事業を拡大していきたい場合も、信用の面などから法人にした方が良いでしょう。 許認可などが必要な場合も、法人の方がおすすめです。

明確な理由がなければ、個人事業で始めて法人成りするのがおすすめ

上記のどれかにあてはまらなければ、一般的には個人で始めた方がリスクは少ないでしょう。 まずは個人で始めて、事業が軌道に乗り、売上高が1,000万を超えたくらいで法人にしても遅くはありません。 また、売上高が1,000万円を超えると消費税を納めなければなりません。 詳しい説明はまた別に記事にしますが、個人事業で始めた場合、普通は最初の2年間は消費税は納める必要はありません。 3年目から消費税を納めることになった場合、このタイミングで法人化してしまえば、個人時代と合わせて最大で4年間消費税を納めなくて良くなります。 消費税は売上にかかってきます。 たとえ利益がマイナスだっとしても払わなければなりませんので、このメリットは大きいです。 これから起業を考えている方は参考にしてみてください。

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Seiji Aihara / 相原 征爾

Seiji Aihara / 相原 征爾

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